中国武術の武器術では、「槍」がもっとも大事、だと思っていた時期が俺にもありました。。テンプレ通りの書き出しで恐縮ですが、「槍は百兵の王」の言葉を引くまでもなく、槍は中国拳法において特別の地位を与えられています。
あまり複雑なことを考えるのが得意でない私は、「武器は素手の延長」という、これまた中国武術界ではよ〜く耳にする言葉も、現代において「長い棒」はある種の「トレーニング補助器具」くらいの文脈で考えればいいや、と、これまた浅い理解で練習に励んでおりました。
そして、上記の言葉から、「長い武器=有利」「短い武器=不利」という結論を引き出し、「現代においては、ナイフによる事故、事件が最も多いと思うけど、ちょっと長い棒(理論的には、平均的なサバイバルナイフのサイズである、だいたい30cmよりも長いもの)でもあれば、十分に防御できるんじゃないの?」と思っていました。
しかし、先日、葛西眞彦氏の考案した「斬撃道」の「お試し」的な実験セミナーに参加して、棒(1メートルちょいくらいかな)対ナイフ、という想定練習をしたところ、こちらが棒を持っているにもかかわらず、突進してくるナイフをまるで避けることができない、という現実に直面して、考え方を変えなければ、と思いはじめています。
一応補足しておくと、「斬撃道セミナー」では、「槍対ナイフ」まで間合いが異なる実験は行いませんでした。また、公共機関等では不慮の事態に備えて、刺股が備えてあることが多いことからも、圧倒的に間合いが長く、重量のあるものであれば、さすがにナイフの突進を避けることはできそうです。
しかし、現実に、手頃な位置に刺股やら槍が存在していることは滅多にありません。木刀やバットのように、「フルスイングが当たれば即、戦闘不能(下手すれば死亡)」といった、重量や強度的に「確かな得物」が手元にあるケースも稀でしょう。
ドラクエなら初期でも「ひのきのぼう」が入手可能ですが、ウチの近所で「ひのきのぼう」を入手するには、蚕糸の森公園あたりまで遠征しないと多分無理です。
ちょっと昔の某邦画ホラーでは、追い詰められたヒロインが「手動タイプの押切式ペーパーカッター」をマチェーテよろしく「敵」に振り下ろして辛勝、というシーンがありました(おもくそネタバレなのでリンク自粛)が、現実に手元にあるのはせいぜいモノサシとか、よくて傘かホウキ、といった貧弱な得物ではないでしょうか。
であれば、呉式太極拳の剣の動きが使えるのではないか? と思った次第です。中国武術の剣は、現実にはもちろん鋼鉄の板であり、それなりの重量があるのですが、呉式では、まるで弦楽器の弓を持つがごとく指先で優雅に握り(しかもほとんど片手)、フワフワと、クルクルと相手を翻弄します(たぶん)。動作も、単に突いたり切ったりという動作は極めて少なく、なんらかの手段で相手に接触して、柔らかい勁で相手をいなしているのだろう、と思われる動きがほとんどです(まあ、「相手にブッスリ刺した後、全身の捻りを総動員して剣をさらに捻じ込む、という「地功螺絲剣(銃夢 LAST ORDER)」の元ネタかよ、的な動作もあるんですが)。
こんな動きで大丈夫なのか? ……そう思った時期が(以下略)。「そもそも、剣自体が高貴な人間が身につける、キャシャな武器であるから、その使い方も「優美」なものになっているのではないか?」そのようにも思いました。
しかし、「良くてビニール傘」くらいしか手近の武器として期待できない現代社会においては、この、片手剣を用いた技術こそが、現実的な戰いなのではないでしょうか。古流剣術とかを全く知らないのでものすごくアホなことを書いてるかもしれませんが、示現流が一太刀で決める、といっても、たとえばビニール傘一本で、クスリをキメてる暴漢(サバイバルナイフ付き)の突進を一発で止められる破壊力を出せるのだろうか、と(個人的には、たとえ竹刀持ってても無理なんじゃないか、と……)。
というわけで、「現代社会では、剣こそが実戦的」という仮説で、しばらく「剣ラブ★」な心意気で練習を続けてみたいと思っております。
まあ、問題は剣でもなんでも、それなりに戦える勁が身につくまでにあと20年くらいかかりそうなんだよな……。