先日、TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国(2016年11月27日放送。「ラジオCLOUD」にはありませんが、まあ、探せばどっかで聴けるんじゃないかなあ。。)」を聴いていると、ゲストが吉田沙保里選手でした。この番組は、安住氏のこじらせ倒したフリートーク(ちなみに一番好きな話は「成人式をハシゴしてサボテンを貰った」話。最近では「カレーをおなか一杯食べるんだよう」が白眉だと思っている)と、中澤有美子さん(かわいい)の絶妙な合いの手、国内トップレベルではないかと思われるハガキ職人の投稿を楽しむ番組で、ゲストのコーナーはそれに比べると正直当たりハズレがあるんですが(※個人の感想です)、今回はレジェンド吉田沙保里選手、ということもあり、興味津々。
で、そこで衝撃的な発言が。
「握力は、中学のときに脱臼骨折してから力入らなくて、左20kgしかない。右も最高で40kgくらい」
日本人の成人女性(22歳女子)の平均値が28.5kg。強い方の「右手40kg弱」という数字だって、アスリートとしては決して飛び抜けたものではありません(ちなみに男子平均は50kgだそうで)。曰く、「レスリングは柔道と違って強く握るわけではなく、引っ掛ける動きなので、ギュっと握る力は不要」「握力のトレーニング自体やったことない」「(レスリング選手にもいろいろなタイプがあって)私はウエイト(トレーニング)あんまり好きじゃない。筋肉質の人と瞬発性とスピードで勝負するタイプの人で、身体つきも違ってくるし」「腹筋(運動)も出来なくて、バキバキのシックスパックとかじゃ、全然ない」
え、そうなんだ……。
気になってググってみると、確かに2016年9月24日放映の「ジョブチューン」でも、同様の発言(まあ、探せばどっかで…以下略)。ネット民は「わざとらしい女の子アピールwww」「右目を閉じる力が20kgなんだろ」とか盛り上がっていますが、日頃、脱力脱力、放鬆(ファンソン)放鬆言ってる太極拳オジサンとしては、「ふーむ、そうなのか、やはり世界のトップレベルともなるとそういうことを言うようになるんだな」と感慨もひとしおです。そして、レスリングでは握力大事、みたいな情報を発信しているトレーナーの人は涙目だぞオイ、などと余計な心配をしたりして。
だ が し か し。
2015年放映の「所さんのメガテン!」そしてさらに、お膝元の名古屋テレビ「スポーツ研究所(2004年12月18日放映分)」 では、こんな話になっています。
- 吉田選手の握力は、右43.2kg/左34.3kg(メガテン)/40kg(スポーツ研究所。「左右」の表記は無かったので、強い方の数字かな?)
- レスリング(では)強い握力が必要。栄コーチや吉田選手も、出演者の腕を掴んで「アイテテテ」みたいなことをやって、握力がスゴイアピールに余念が無い
話 が 違 う じ ゃ ね え か (困惑)
……ま、所詮はバラエティの話ですし、番組内でも、「柔道着を着ると、服を掴まれて全然タックルに入れない」みたいな話にもなってたし、そんなに目くじらを立てなくてもいいっちゃいいんですが、いくらなんでもそんなに数値変わるわけねーだろ、とは思います。「一日一回エゴサーチ」を欠かさない吉田選手(笑)のこと、こういう発言を、公の場で不用意にするとは思えず、なんらかの意図を感じないわけにはいきません。若干のモヤモヤは残りますが、とりあえずは、「どんなジャンルであれ、世界の頂点レベルにおいて、「強さ」というものは、簡単に数値化できるモンじゃないよね」くらいのキレイなまとめにしておきましょう。
さて。
ここから先はただの太極拳好きのオッサンの妄想なんで、関係者の方は全部スルーしてくださいね。
吉田選手の握力数値「変動」の件、時系列を追うと、「絶対王者・吉田沙保里」という存在だった2016年8月18日以前は、「吉田選手の身体能力はスゴい!」というアピールで、番組に出る方も、作る方も合意が出来ていたんだけど、それ以降は「伝えたいこと」が変わった、という風に私は捉えています。
リオ五輪の女子レスリング、最大のトピックは「吉田沙保里、ヘレン・マルーリス(美人)に決勝で完敗」なわけで、ここでヘレンが取った戦略は、徹底した「タックル潰し」でした。具体的な戦術としては、しばしば吉田選手の「左手」を掴むシーンが見られ、吉田選手がタックルに入る、その「入り口」を完全に潰しています。吉田選手は、(まあ当然両方で入れるんでしょうけど)圧倒的に左肩口からのタックルが多い印象ですから、そちらを制する形になるのは自然な流れだったのでしょう。もちろん、そもそもどうやって掴むのか、みたいなことから、そこからポイント奪取に繋げる方法論など、実際にはものすごく沢山のことがあったとは思いますが、なんせこちらは4年に一度盛り上がるだけのレスリングシロートなのでそこら辺は分かりません。最初のピリオドではたびたび「消極姿勢」を取られ、第1ピリオドこそ吉田が取ったものの、その後の試合をコントロールしていたのは過去の対戦では完全に格下だったヘレン選手でした。吉田選手にとってはとんでもない屈辱と恐怖だったことでしょう。
そういう視点で見れば、吉田選手の試合直後の「力出し切れず申し訳ない」というコメントにすら、「「高速タックル」という、自分の持ち味を殺されたまま終わってしまった」という悔しさ(と動揺)が滲み出ているようにも感じます。
おそらく、ヘレン戦を経て、彼女とチームは「パワーとスピードで勝る相手に、さらに、タックルの機先を制するコントロール能力がある、とすれば、どうするか?」について徹底的に議論したはずです。そしてさらに推測すれば、「相手を掴む、ということが先方の戦術なのだとしたら、それ自体が攻略ポイント(弱点)として使えるのではないか?」という組み立てをしたのではないか、と。
相対的に言えば、「掴む」ことは大きな隙になるはずです。相手が力んで掴んでくるのであれば、そこから崩していく可能性があるのではないか。そして、そのためにはこちらはフンワリと掴む(いやむしろ掴まない)、くらいに考えておかないと、相手の「隙」を感知できないのではないか。
……うん、どこから聞いたような話になってきましたね。(笑)
4年後の東京オリンピックで、王者に返り咲いた吉田選手がバラエティで太極拳修行者のようなコメントを連発していたら、まあ、私の読みが当たった、ということで。そういう意味でも応援してます。ハイ。